古典文学読書会のブログ

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『源氏物語 A・ウェイリー版』第3巻の読書会議事録

源氏物語ウェイリー版第3巻読書会を行ったので、その議事録をまとめた。

 

・面白そうな箇所をピックアップして、ウェイリーの英訳と姉妹訳とを見比べてみた。

 

As the weeks "vent by, the child grew more and more attractive, and before long even the' touch of bitterness' that ItS existence had been wont to lend to Genjis thoughts utterly disappeared. He felt that the child, now a source of so much delight to him, was destined to be born In that way and no other. Kashiwagi had but been the Instrument of Fate. Among the strange consistencies of hIs apparently enviable lot, none (thought GenJI) was more curious than this, that the one lady In his household who was of faultless lineage, young, beautiful, In every way Immaculate, should after a short spell of marriage WIth him declare her preference for the convent! At SUCh moments some of the old bitterness agaInst Kashiwagt would for a while return.

(The Tale of Genji, p695)

 

 

姉妹訳の252ページに対応している。

 

源氏の柏木に対する赦しが仄めからされている場面である。英訳では、大文字のFate(キリスト教的な意味での絶対神の御力による運命)や「穢れなき」ということを表現するのに無原罪の懐胎を意味するimmaculateという言葉が使われている。

 

Fate、「運命」は日本文化で言う「宿命」ではないだろうか?宿命とは仏教用語で前世から定まっている事柄の意味である。

 

ウェイリーは日本文化や仏教の知識にも精通していと思われるが、あえてイギリス人、ひいてはキリスト教文化圏の人間にわかりやすいようにキリスト教用語を使っていると思われる。

 

このあたりは日本人が現代語に訳した翻訳にはないウェイリー版の特徴と言え、異文化理解が進んだように感じた。

 

 

 

女三宮の登場あたりから源氏のヒーロー物語が暗転していく。

 

源氏は頭中将の息子柏木に女三宮を取られた形となった。

 

このあたりから源氏の精神性、人格的な完結性が崩れていく。

 

あらゆる人を受け入れ、愛してきた源氏だが、全ての人を愛せる存在ではなくなっていく。

 

源氏のヒーロー像が暗転していく。

 

また時を同じくして紫の上も崩れていく。

 

紫の上は、血筋で劣り、正妻にはなれない立場にあり、さらに自分よりもずっと若く血筋も優位な女三宮(朱雀天皇の娘)の登場に激しく動揺する。

 

紫の上自身が、年若い時に源氏に引き取られ、その後、源氏の妻になっていくわけであるが、自分と似た物語を持っている女三宮に動揺したのではないだろうか。

 

 

・物語全体としてみても女三宮の登場が転換点になっている。

女三宮の登場以前は、竹取物語など源氏物語以前にあった物語を洗練させたような話が続く。

 

女三の宮の登場以後、源氏のヒーロー像にかげりが見える。その後、源氏が逝去する。

 

そして、宇治十帖にはいると、どうにもならない人たちのどうにもならない物語へと話の質が変容する。

 

源氏物語は宇治十帖が特に面白いという意見が出た。

 

宇治十帖は、ゲーテの親和力やアンドレジッドの狭き門などに通じるものがる。

 

 

・八宮と総角について

 

八宮という異常な人間の閉鎖的なコミューンの中で総角は人格形成をした。

 

・匂宮と薫は二人を合わせて源氏

 

型として愛を匂王(色々な愛人がいる)が、

 

精神として愛を薫が体現しているのではないだろうか。

 

匂宮と薫を二人、合わせて源氏になるのでは?

 

 

 

・音楽が色々な箇所で登場する。

 

例えば、「横笛」の帖など。

 

作者の紫式部は音楽よりも言葉が得意な言葉の人間だったはず。言葉の対極にある音楽に惹かれたのではないか。

 

・霊とは?

 

紫の上、柏木に六条の御息所の霊がとりついた。

 

当時は霊は、今よりずっとリアリティが強いものであった。

 

六条の御息所は最も賢く、高貴な地位にある女性。だからこそ生まれてしまう、欲動、執着があるだろう。

 

当時としては、陰陽師は今で言う公務員であり、霊媒は、科学であり、自然現象に対する説明能力があるとされていた。

 

明治、大正ですら、祈祷師を呼んで病を治すというのは普通にあった。

 

 

 

・薫と総角が結ばれなかったのは偶然ではなく必然か。

 

からしたら、八宮の元で仏教教育を受け、父の影響を大きく受けた総角は理想の女性。

 

総角も薫が自分の思う理想通りに二人きりになった時に動いてくれると期待していた。

 

お互いが互いに対して、幻想を見ていた。

 

その意味で、薫と総角が結ばれなかったのは必然と言えるのではないだろうか。